シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 断魂辣(魂が消し飛ぶ唐辛子) (5)

 
 私はふと思い至ったことがある。そういえば、この唐辛子は、唐辛子好きの間でたまに話題に上る、驚異の「浸し唐辛子」なのではあるまいか。私はかつて聞いたことがある。その種の唐辛子は、さっとスープにくぐらせて取り出すだけで、そのスープは恐るべき辛さになっているというのである。そして、私が今作った唐辛子のつけだれも、たった五本の唐辛子で死ぬほど辛くなったのであった。さらに五本追加しなくて本当によかったと思う。

 耐えきれないほどの辛みは、口の中にまだ渦巻ように居座っている。私は洗面所に行って何度もうがいを繰り返した。水を口に含んでは吐き、含んでは吐きを繰り返しているうちに、ようやく辛みがわずかに引いてきたようだ。

 台所に戻ったら、先ほどの唐辛子のつけだれは一旦捨てて、小粒の唐辛子で新しく唐辛子のつけだれを作ろうとしていた。その矢先、広間の方から子供の声が聞こえてきた。私は急いで蠅除けカバーで料理を覆い、すぐに子供の様子を見に行った。

 だが、ちょうどそのとき、夫の楊林も帰宅したところであった。彼はいつもの癖で、何も言わず、何の音も立てず、そのまま台所へと直行した。テーブルの上の蠅除けカバーを取ると、そこにはきらきらと潤う木耳が眼に入った。思わず箸を延ばして木耳を一切れつまみ、少しではなくどっぷりと、先ほどの唐辛子のつけだれに浸けた夫は、それを口に放り込み、その上しっかりと咀嚼してしまったのであった。

 私は夫が口汚く「くそっ!」と叫んでいるのを広間の方で聞いた。まるで彼が何者かに殺されかかっているかのごとき、悲鳴のような叫びであった。

 私は我が子の|綺綺《チーチー》を抱いて駆け戻り、大声で夫に聞いた。「あなた!あの唐辛子を食べたんじゃないの?誰が食べていいって言ったのよ。この腹空かしっ!」

 夫の顔は耳まで真っ赤になっていて、眼を見開いて呆然と立ち尽くしている。まるで、すべての知覚が失われた人間のようである。眼はまっすぐに何かを見つめているようでまるで焦点があっておらず、眼球は動かない。舌をべろりと出して、唾液がだらだらと滴り落ちている。まるで魂を抜き取られた人間のようで、その様子は幾分恐ろしささえ感じさせた。

 「あなた、あなた、どうしたの、大丈夫?」

 私は慌てて聞いた。そのまるで覇気のないありようはすでに半分死んでいる人間のようであった。

 夫は何も言わず、それからしばらく、ずっと喘ぐように口をすーはーすーはーさせている。耳を揉み、頭をかきむしり、そうしているうちに、徐々に正気が戻ってきたようであった。

 夫が口汚く罵る直前の空気を察した私は、さっさと振り向いて逃げたくなった。

 予想どおり、夫は前後不覚になるほどに手足をばたつかせて暴れ、そして吼えだした。「おまえ、いったい何の料理を作ったんだ。これは人間の食い物か、くそったれ!まったくお前というやつは、それでも女房か!」

 夫の言葉に、私の怒りもむらむらと湧き上がってきた。この男は何かというと大げさに喚き立てるのであった。そうして口から放たれる言葉は聞くに堪えないほど口汚いものであり、彼に対する同情心はそれによって消し飛んでしまったのであった。私は敢えて故意に大笑いして、揶揄するように問い返した。「おいしい?これが世界に名を轟かす浸し唐辛子なのよ。ふん。誰が盗み食いしろって言ったのよ。いい気味だわ!」


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