霊犬蒙迷科(霊犬マウンミークー)(10)



 今日は本当にいろいろなことが起きる日である。

 父はすぐに背嚢を床下に放り込み、私達三人は囲炉裏端に座った。

 外ではマウンミークーがずっと吠え続けている。それから、誰かが呼んでいるのが聞こえた。

「陳さん、陳さん。犬を抑えてくれないか!」

「王興財が来た!」

父は複雑な表情を顔に浮かべながら腰を上げ、家のドアを開けて外へ出て行き、マウンミークーを宥めに行った。

 王興財は父と一緒に翡翠を掘っている、いわば仕事仲間である。話によれば、彼は鉱山に来てからかれこれ七、八年になるという。

 彼は家に入ってくるなり言った。

「陳さん、今日は仕事に来なかったけど、一体どうしたんだい?病気かと思ったよ」

 だが彼が我が家に来たのは、決してお見舞いなどではなかった。なぜなら、質のいい翡翠を見つけた人は、いつも突然失踪するのが常だったからだ。

 父はすぐに取り繕った。

「今日はちょっと体の具合が悪くてね。薪を取りに行った時に、木に腰をぶつけてしまって。もう空も暗くなってきたし、子供たちも家から出たがらない。それで、私が今出ていって犬を抑えたんだ」

 マウンミークーは父を探しに来たようだった。囲炉裏のそばで父を見守るように落ち着いている。

 王興財は寝台の上を見回しながら言った。

「木にぶつけたのなら、どうして横になって休まないんだ?」

彼は上っ面では笑っているが、心ではちっとも笑ってなどいないのだ。

 まずい。寝台の上の毛布は、きれいに折り畳んであった。父までが少々慌てだした。

「どうした?鉱山からおさらばしようってか?」

王興財はこうなると厚顔無恥そのものであったし、一気に本音をむき出しにし始めた。

「ひと財産稼いだら、みんなで分かち合わずに、黙ってここからおさらばするなど、まさか、お前さんにはできっこないよな?」

「……」

父は沈黙するしかなかった。

 だが、彼らが言う「分かち合う」という言葉を、その額面通りに取ることはできない。彼らの欲望とはそんな可愛いものではないのだ。

 翡翠鉱山で財を成そうとして、その結果、命を落とす人々。その数の、なんと多いことか。


霊犬蒙迷科(霊犬マウンミークー)(11)へ続く


スポンサーサイト
カテゴリ
Facebook Page
検索フォーム
ブログ記事一覧
プロフィール

deguchik

Author:deguchik
中国語で書かれた作品から、北タイやビルマ(ミャンマー)シャン州、黄金の三角地帯(ゴールデントライアングル)の歴史や風物を読み解いていきます。
個人のFACEBOOKページ
このサイトのFACEBOOKページ

Contact/ご連絡

Your name/お名前:
Your E-mail/メール:
Subject/件名:
Message/本文:

RSSリンクの表示
リンク
QRコード
QR