シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 藍色的枸閙花(ゴウナオの青い花)(9)

 
 その卵がどうして殻だけであるかというと、その卵の殻の下部には小さな穴が開けられた跡があり、その部分が黄色い蝋で封じられていたからであった。老婆は気を付けながらそっとその黄色い蝋を剥がして、ゆっくりと卵の殻を揺らしながら傾けると、その中から真珠の赤ちゃんのような小さな粒が出て来て、その粒を竹で作ったコップの中に数粒入れた。

 老婆はそれが終わると、まるで護衛のように先ほどから彼女の脇に突っ立っている一人の男性にその殻を手渡し、彼はすぐさま溶かした蝋で先ほどの穴を塞いでしまった。それをまた先ほどの竹筒に戻すと、その竹筒を彼らの守り神である、木彫りの裸の人形に恭しく捧げたのであった。

 もう一人の男性が薬酒の詰まった瓢箪を手に持ち、その黄褐色の薬酒をその竹のコップの中に注いだ。その量は決して多くはなく、ちょうど半分より少ないぐらいであった。

 二人の男性がヘンリーさんを抱き起こす。老婆はその竹のコップを軽く揺すりながら、なにやら呪文のようなものを唱えてから、そのコップの中身をヘンリーさんの口の中に注ぎ入れるようにして飲ませようとしている。

 しかし、この重苦しい空気に耐えきれなくなった学生が声を上げた。「先生。あれは|壁蝨《ダニ》ですよ。ヘンリーさんに壁蝨を飲ませているんじゃないですか!」

 私はこうしたものが苦手なのであまり見たくなかったが、彼がこうして騒ぎ立てたのでちょっと覗いてみた。いくつかは殻だけになっているが、先ほどの粒のうちいくつかは動いていて、おおむね生きているわけだ。壁蝨は薬酒の表面を必死に泳いでいて、中には竹のコップを這い上ってきている強者もいたが、外に出る前に老婆にはたき落とされていた。壁蝨は十数匹ぐらいはいたと思う。

 私がメーサロンに来てから、一度も壁蝨を見たことがなかった。したがって、私はこのあたりには壁蝨が住めないものだと判断していた。すると、この壁蝨は一体どこからやってきたものか。なるほど、アカ族の人たちがこの壁蝨を大切に扱うわけである。たしかに、この地域で壁蝨を手に入れるのは容易なことではないはずなのだ。

 酒に浸した壁蝨!かつて見たことも聞いたこともないこのような仙丹妙薬は、果たしてヘンリーさんを救うことができるのだろうか。

 心の中ではこの情況はあまりにもどうかしていると思い始めていたが、こうなってしまっては時すでに遅し。私たちはすでにメーサロンからさらに遠い場所まで来てしまっていた。遠くの水で近くの火を消すことはできないのであった。

 みなはこれを止めようとしたが、他に方法がないのなら、これを試す以外の道はないことは自明ともいえた。

 私たちがこうして決めかねている様子を見たアカ族の人たちは、露骨に不興の顔色をにじませている。彼らのその表情は、私たちが何も知らないくせに、一体これ以上なにを迷っているのかと言いたそうだ。

 私は無言で同意するしかなかった。ここまできたら、いっそのこと思い切って彼らに任せてみようじゃないか。

 一人のアカ族男性が、固く噛みしめるように閉じられたヘンリーさんの口を竹べらでこじ開けている。続いて例の老婆が片手でヘンリーさんの鼻を塞ぎ、もう一方の手で竹のコップの中身を揺らしていたが、やがてその中身を一気にヘンリーさんの口へ流し込んだ。

 ヘンリーさんが大きく息を吸い込んだ時に、この壁蝨入りの薬酒はぐびっという音を立てて一気に飲み込まれていった。


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