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家有安琪児(我が家に天使あり)(10)最終回

 
 
 夫は相変わらず酒に酔ってへろへろの状態のまま、一人でちゃんちゃかと食器を打ち鳴らしながらあの自作の哀歌を歌っていて、自分の娘の話に付き合うのも面倒くさいといった感じで相変わらず呻吟している。

 だが私は食器洗いの手を休めて、興味津々、すぐに綺綺のいる部屋へその様子を見に行った。すると、綺綺は小さな手で縫い針を動かして、糸がほつれた夫のジーパンを必死に繕っているところであった。

「綺綺、何をやってるの?」

「お父さんのズボンを直してるの!」

綺綺は大真面目である。

「ほら、もう終わったよ!」

綺綺はそう言うと私にはさみを持ってきて残りの糸を切ってと頼んだ。

 私はそのジーパンを手に取ってじっくりと見てみた。その糸は縫い針がでたらめに通った跡に沿ってばらばらに広がっていて、長短がまるで不揃いの糸は、至る所に不器用な結び目を作っていた。二筋の縫い目はまったく揃っていなかった。

 だが私はとても感動して綺綺を抱き寄せた。そしてそのジーンズを手に母子三人で台所へ行くと、夫はまだあの歌を歌っていて、今まさに、「失意の主人公」を懸命に演じているところであった。

 私はジーパンを夫に投げつけて言った。

「ちょっとこれをご覧なさい。あなたの娘があなたのズボンを繕ったのよ。もし一人自分の世界に閉じこもって、本当は満たされていることに気付かないなら、あなたは永遠に幸せな日々を送ることはできないわよ」

 夫はそのジーパンを手に取ると、酒に酔って朦朧とした眼で、たった今、綺綺が繕った部分の滅茶苦茶な糸の跡を眺めていた。そして自分の娘が自分を思いやる気持ちに気付くと、喉を詰まらせて言葉も出なくなった。

 そして現在、綺綺はもうすぐ五歳になるところである。もう草花を手折ることもないし、何もわからず学校を大騒ぎに陥れることもないし、人に出会えばタイ式に合掌して挨拶をするようになった。一方で公衆道徳にも確実な進歩が見られた。もし我が家の犬のピンピンとパンパンが路上で粗相をすると、すっ飛んでいって犬を蹴り、厳粛な声色で犬たちに教訓を垂れるのであった。

「どうして人前で恥ずかしくもなくおしっこやうんちができるの!」

そして家に戻ってきて私に報告するのであった。

「ピンピンとパンパンが道でうんちしちゃったの。お尻も拭かないで帰ってきたよ。もう、汚いんだから!」

 綺綺は近頃、龍眼の種をたくさん植えた。この子の龍眼に対する愛情の注ぎっぷりは大したもので、いつでも気に掛けている。一度思い立つと、雨が降っていようともそれには一切お構いなしで一日に何度も水をやりに行くのであった。毎日日課のように土を掘り返しては種から芽が出ていないかと観察するのであった。そしていつも決まって言うのであった。

「龍眼の気が大きくなって実を付けたら、幼稚園の友達と先生に食べさせてあげるんだ!」

【家有安琪児(我が家に天使あり) 完】




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