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シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 風猴乾(猿の干物) (1)

 |祥林《シェンリン》さんが経営するコーヒー店の入り口のあたりに黒山の人だかりが見えた。四歳になる私の娘は、私が学校から帰ってくるのに気付くと、息せき切って駆け寄ってきて私に言った。

「お母さん、大変だよ大変だよ。アカ族がお猿さんを売りに来てるよ。二匹もいる。一匹は大きくて、小さいのを抱いてる。すごく可哀想だよ。大きいお猿さんは、その小さいお猿さんのお母さんなんだって!」

 娘は興奮しながら私の手を引いて、そのアカ族が売っている猿を私に見せようとしている。私は娘の手をしっかり握ったまま祥林さんの家の土間に行くと、三十歳ぐらいアカ族の男が、肩に葉や小枝が付いたままの太めの木の枝を担いでいる。そしてその太い木の枝に、猫より少し大きいぐらいの母猿が繋がれている。母猿の首はひもでその木の枝に繋がれている。そのほか、両足が小枝に繋がれていて、右腕が太い幹に繋がれている。その母猿はそんな状態で、なんとか身体の均衡を取っているのであった。残った左腕には子猫よりわずかに大きい小猿をしっかりと抱きかかえている。この猿の母子がお互いにしっかりと抱き合いながら人間の手に落ちた様子は、人の心を強烈に揺さぶらずにはおかない光景であった。

 私の気持ちにも波風が立ち、眉を思わずしかめていた。平素の私はアカ族の貧困に同情することが多いのだが、このときばかりは、この猿を売るアカ族の男に対して、言葉に言い表せないような嫌悪と反感を抱いた。

 そのアカ族の男は、見物人が多くなってきているのを見計らい、幾分得意気に話し始めた。もともとこの母猿は一度脱出に成功したのだが、子猿が恐慌を起こしたため、木の枝から落ちてきたところを彼に捕まった。母猿はそのため仕方なく下に降りてきたという。この母子猿二匹は、このようにしてこのアカ族の男に御用となったというのであった。

 驚きと怯えを交差させて、かっと見開いたその母猿の黒くて大きな瞳には、恐怖心が満ちている。警戒しながら周囲の観衆を凝視している。懐には、憐れみを誘う、まだ震えが止まらない様子の子猿をしっかりと抱きかかえている。

 賑やかなことが好きそうな、いかにも思慮の足りない一人の子供が、残酷にも木の枝でこの子猿を突いている。母猿はこの子供に対してきっと牙を剥いて威嚇した。母猿の眼の中に見えていた恐怖心は、野性の本能ともいうべき凶暴さによってかき消されている。全身の黄色がかった毛並みを逆立てて、我が子を守るためならいつでも命を投げ出すという、勇ましい覚悟を見せつけているのであった。

 そして観衆たちの間から、誰彼ともなく叱責の声が漏れてきて、この子供は棒を手放した。

 こんどは別な子供が猿にバナナを差し出した。母猿は上手にさっとそのバナナを捕まえると皮を剥いて子猿に食べさせている。子猿は極度に腹を空かせていたらしい。二三口でそのバナナを飲み込んでしまった。子猿の頬は、今口に放り込んだバナナで破れんばかりに膨れている。子猿は怯えながら母猿の懐にしがみつき、脇の下に隠しておいたバナナを少しずつ口に頬張っている。

 「あらまあ、なんだか人間そっくりねぇ。親は子供に先に食べさせるのね」そんな感心したような声が聞こえてきた。

 「そうよ。自分だって食べたいだろうに、まず子供に食べさせているんだわ」


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中国語で書かれた作品から、北タイやビルマ(ミャンマー)シャン州、黄金の三角地帯(ゴールデントライアングル)の歴史や風物を読み解いていきます。
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