シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 断魂辣(魂が消し飛ぶ唐辛子) (3)

 
 だが、いつの間にか、お婆さんの顔から笑いが消えている。そして、お婆さんはひと枝だけ注意深く取り出すと、それを私に渡してくれた。そして、ちょっとでも多く食べると白目を剥いて死んでしまう動作をしてみせる。その感じはまるで真剣そのものであり、私に冗談を言っているのではないことは明らかであった。私はぽかんとその動作を眺めながら、一方で、これはなかなかおもしろい、滅多に出会えないアカ族のお婆さんに出会ったと思ったのであった。

 さらに、彼女は心から訴えるように私を見つめ、近くにあったゴミの山を指さした。つまり、たくさん買ってもあまりの辛さに食べきれず、結局はゴミになってしまうといいたいのであろう。

 そう考えると、このお婆さんの胸に秘めた良心は大したものであった。彼女は自分のものをとにかく売りつけるのではなく、それどころか反対に、他人の無駄遣いを恐れているのであった。こうした純朴な商業道徳に私はむしろ大いに感動したのであった。しかし、彼女の好意を尊重しつつも、だがなお自らの興味を抑えきれない私としては、やはりここはせめて、たとえひと枝でもいい。なんとかして手に入れることに固執した。値段は一バーツ、ひと枝には十個の唐辛子の実が付いている。

 タイビルマ国境地帯にあって、アカ族はもっとも原始的で未開発、そして穏やかで善良な山岳民族であると思っている。こうした彼らの純朴で、ときには愚昧とさえ思える天性は、往々にして人に騙されるという結果に繋がっていた。多くの人が彼らの良心に付け込み、彼らから買い叩いたり、量目を誤魔化す、めちゃめちゃに値切るなど、見ている私でさえも怒りを抑えきれないことがある。

 アカ族たちが売っている品物の価格はもともと極めて低廉であり、それはじゅうぶんに公平なものである。ゆえに私は彼らからものを買うときにいちいち値段交渉をするのがどうにも嫌いであった。彼らの言い値で品物を買ったとしても、普通の人が考える値段から見てもじゅうぶん安いのである。

 買い物は終わった。私はお婆さんに少し多めにお金を払った。このようなほんのわずかな施しにさえいたく感激した様子で、嬉しそうに我が家を離れていった。

 私は買った品物を台所に持って行き、桶に水を張って木耳をさらす。そしてあの愛すべき謎の唐辛子はといえば、手に取ってうっとりと鑑賞していたのであった。このような唐辛子は、ニスを塗って装飾品にすれば、その姿は精緻であり美しく、きっとみな新鮮な興味を覚えるに違いないだろうと思う。こんなに艶やかで美しい果実が植物として葉とともに生えていてる様子は多くの人の眼を喜ばせるはずだ。だが、こんなに美しい唐辛子であっても、その味は私たちが想像を絶する辛さを秘めているのである。

 この唐辛子を見れば見るほど、私はどこからともなく湧き上がる後悔の念に囚われていった。私はやはりあの唐辛子を全部買い上げてしまうべきであった。この種の唐辛子はきっとそう簡単に手に入るものではないからである。私はこの地域に住むようになってもう何年も経つが、このような唐辛子を買ったのはこれが初めてであった。


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