シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 断魂辣(魂が消し飛ぶ唐辛子) (1)

 
 ある日の雨上がりの午後。一人のアカ族のお婆さんが、籠いっぱいの野菜を担いでメーサロンの集落へ売りに来ていた。道に沿って、一軒一軒訪ねながら売り歩いている。

 「おばさ~ん、野菜~だよ~」彼女は我が家の入り口のあたりにやってきて、その自慢の喉で、まるで歌でも歌っているかのように、かけ声を長く長く伸ばすのであった。

 だがそのとき、我が家の犬が狂ったように吠えながら飛び出してきてしまい、お婆さんはそれに驚いて叫び声を上げている。慌てて逃げようとしたので担いでいた籠がほとんどひっくり返りそうになった。

 私も慌てて外に出ると、急いで犬を繋ぎ止めた。そしてお婆さんに、もう大丈夫だからと手招きして呼び寄せた。私を見たお婆さんは、私の年齢がおばさんというほどの年齢でもないことがわかったので、申し訳なさそうに軽く照れ笑いをした。そして、「アブー、野菜だよ」と言い直したのであった。アブーとは、アカ語でお嬢さん、娘さんというほどの意味である。

 こうした呼び名は別に形式張ったものというわけではない。それに私自身も、自分がどのように呼ばれるかというようなことはあまり気にしないたちである。私はお婆さんに向かって「おばさん」と呼びかけ、「あなたの野菜が欲しいわ。ちょっとこっちへ来てね」と言った。

 アカ族のお婆さんは、犬が完全に繋ぎ止められているのを確認すると、安心して竹垣の中へ入ってきた。顔には満面の笑顔をたたえている。あまり正確とはいえない中国語で「ええと、|木耳《きくらげ》、|茸《きのこ》、|蕨《わらび》……、いろいろありますよ。まずは見てくださいな」と言いながら、頭の上にのせている籠をおろして、彼女が野山で摘んできた収穫物を売り始めたのであった。

 わっ!この籠の中はまさしく色とりどり、珍しいものばかりなのであった。色鮮やかなトマト類や、いかにも食欲をそそる野菜の数々。赤いものはしっかり赤く、緑のものはきちんと緑で、白いものはほんとうに白く、黄色もまた鮮やかに黄色である。そして表面に付着している透明な露がまだみずみずしく、みなしっとり生き生きとしていて、見る者の眼に清涼感をもたらしてくれるのであった。

 私が喜び勇んでこうした野菜たちを眺めていると、お婆さんは脇の下からふた節ほどの長さの竹筒を引っ張り出してきた。一方の口に詰めてある草を取り去ると、その竹筒を私の方に突き出して中を見せる。何本も歯が抜けた口を開いて嬉しそうに笑いながら、アカ語でもごもごと喋る。彼女の様子を見るに、飛び抜けてうまいものを私に勧めようとしているのがわかる。

 その竹筒の中には、白くてぐにゃぐにゃした虫がうようよしている。何匹かは這い上ってきていて、竹筒の口から出てきそうであった。それを見た私は思わず声を上げそうになり、じりじりと後ずさりした。

 お婆さんは私の様子を見て残念そうに笑った。つまり、私がこういう物を欲しがらないということがわかったのであろう、潔く諦めてすぐにその虫入りの竹筒をしまい込んだのであった。


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