シャン州をさまよった女流作家 曾焔の伝奇小説 ジャーディーと彼の娘 (2)

 
 メーサロンではだいたい九時頃に朝食をとるのが普通だ。ある日、私が朝食を済ませた頃であった。近所の|字《ズー》さんの奥さんが、わたしのためにアカ族の男を一人捜してきてくれた。彼は四十歳ぐらいでずんぐりとした体躯を持ち、アカ族が自分たちで織った黒くて粗い生地で作った衣服を着ている。彼は肩に鋤を担ぎ、腰には長い山刀を一本ぶら下げている。多くの風霜を経てすっかり黒くなった顔には、木訥な笑顔を浮かべていて、ひと目で彼が真面目な人間であることがわかった。

 字さんの奥さんが紹介してくれた。

「彼は、ジャーディー。阿片はやらないし、彼の働きぶりにはきっと満足すると思うわ」と言った。

 ジャーディーはすっかり黒く変色してしまった白いタオルを頭に巻いていたが、その巻き方は他のアカ族とは違い、なにやら中国北方の農民の装束を思い起こさせ、私にちょっとした郷愁の念を思い起こさせた。我が国の農民たちが真面目に働くことは世界でも指折りであると信じている。しかし、タイビルマ国境地区で、農業を生業にしている山岳民族たちはちょっとそれとは違うのだ。水が豊富で、肥沃な大地と暖かい気候に恵まれているため、往々にして大した努力もせずとも衣食に不自由しない生活を送ることができるため、つい人間の惰性が顔を覗かせるのであろう。その惰性と天性ともいうべき愚昧さ、そして阿片吸引の習慣は、彼らを貧困の極みという運命へと貶めている。

 彼が阿片を吸わないこと、彼が頭に巻いているタオル、彼が顔に浮かべている笑顔、おそらくそうしたすべてが私が彼に対して好感を持つ理由となっている。

 私も彼に対して友好的に微笑みかけた。そして、

「私たちは何かを植えるのではなく、とにかく自分の家の敷地に生えている雑草をきれいにできればそれでいいの。それに、それほど急いでやる必要もないわ。ゆっくりでいいのよ。一日で終わらなければ、二、三日で終わらせてくれればいいから」

と作業内容を指示した。もっとも、私が自分自身で草を刈れば、午後いっぱい使ってほぼ三日で終わるぐらいの作業量である。

 ジャーディーはあまり中国語が話せない。私が見る限り、彼はどうしていいのかわからないで少々慌てているようであった。彼は分厚い掌をもった手を伸ばして不安そうに頭を掻いている。そしてその顔には相変わらず、見ている者の憐憫の情を誘うかのような笑顔が濃く現れているのであった。

 それでもジャーディーは、私が言っている意味を理解してくれたようであった。そしてデイゴの木の枝に自分の背嚢を引っかけてから雑草の下手に行って、鎌を振って作業を始めた。その作業にも気合いが入っているのがわかる。

 雑草がごっそりと一塊ずつ刈り取られていく。彼のずんぐりとした体躯と、一見鈍そうな木訥とした様子からは想像できないようなしっかりとした動きであった。

 私は書斎で文章を書いているが、その書斎の窓はちょうど彼が草刈りの作業に勤しんでいる敷地の方を向いていて、ふと頭を上げると、彼が規則正しい動作で上下に鎌を振るっているのが見える。その様子とともに、小気味よくリズムに乗ったシャッシャッシャッという草を刈る音が響いてくる。彼の額の一滴一滴の汗は、頬に沿って滝のように流れ落ちている。

 彼はそうして真面目に作業を進めているが、岩の裂け目に生えた雑草がどうしても刈り取れないようだった。だが彼はそうした雑草の細かい根っこを手で一本一本丁寧に抜き取っている。人の高さよりも高いデイゴの枝が方々に伸びているのを見つけると、彼は腰の山刀を抜いてばっさりと切り落とす。彼のそのしっかりとした仕事ぶり、真面目さ、力の入れよう。それはどこか、芸術性に充ち溢れた労働劇中の舞踊シーンのようであり、その動作の機敏さと真剣な表情には、人を感動させさえする魂の吸引力のようなものを感じる。

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中国語で書かれた作品から、北タイやビルマ(ミャンマー)シャン州、黄金の三角地帯(ゴールデントライアングル)の歴史や風物を読み解いていきます。
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